今年投稿した2本の記事(12)で、私はRiotの掲げる目標、働き方、そしてコラボレーションが生み出す魔法について語ってきました。そこで今回は少し趣向を変え、日々の活動以外の点について…ワークライフバランス、遊ぶことの価値、そして私たちの業界が"年中無休で仕事に励む"ことを尊ぶヒーローメンタリティーから脱却する方法についてお話ししてみたいと思います。それではお付き合いください。

ちなみに私自身12週間の育児休業を取ったばかりで、仕事から離れる取り組みは完全な"自分ごと"でもありました。

仕事を越える優先度

2022年9月3日、『Arcane』はエミー賞でOutstanding Animated Program賞に選出されました。これは私の(職業人としての)人生でも屈指の誇らしい達成だったと言えるでしょう。しかし当日の写真を見てみるとひとつ不自然な点があります。

 
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受賞した企業のCEOが会場にいないのです。でも私は、この決断を一切後悔していません。この時の私は祝福のメールもSlackメッセージも読んでいませんでした。受賞を祝う会合にも出ませんでした。実のところ、この瞬間はそもそも働いていませんでした。自宅でそれよりもずっと大事なこと…「我が4人目の子供」に向き合っていたからです。もちろんこの選択は軽々と下したものではありません。この判断を通じ、私はRiotでの仕事も『Arcane』も心から愛しているけれど、一番愛しているのは家族だと示したわけです。

そしてこれは企業のCEOがよくやるリップサービスではありません。私は育児休業にも真剣に取り組み、期間中は一切のミーティングに出席せず、メールもSlackもまったく読みませんでした。オフィスビルが火事にでもならない限り、一切の連絡事項から距離を置こうとしていたのです。当然そのせいでワクワクする事柄をいくつか逃しもしました(開発中コンテンツのプレイテストがめちゃくちゃにクールだったそうです👀)が、私にとって子供の存在はエミー賞99回でも足りないほど重要ですからそれもやむなしでしょう。私はこの休業期間にストレスレベルを大きく下げ、フランスにいる親族に我が家の新メンバーを紹介し、そして、Riotの新章を綴っていくぞ!と新たな気持ちで職場に戻ってくることができました。

また幸いにも少し余暇時間を確保することができ(父親としての務めには予測不能な要因が多いことが幸いしました)、ずっと遊びたかったオフラインゲームを遊ぶこともできました。最近は「トライアングルストラテジー」をクリアし、今は以前やりこんだ「Slay the Spire」のモバイル版を再びプレイしています。

とはいえ「育児休業の期間が例外的なもので、職場に戻ったら積もりに積もった仕事をガリガリと片付けて無限激務に戻るのでしょう?」と思う方も多いでしょう。しかし幸いなことにその推測は大外れです。Riotには「仕事のバランス」に対する方針があり、これが機能しているからです。 

ヒーローメンタリティー(自分がやるしかない…的な思想)を終わらせる

若手だった頃、私は非常に歪んだ価値観を抱えていました。休息は悪であり、長時間労働こそが"己の価値を示す"方法だ、というものです。いつでもメールに返信し、休暇中でも普段以上の生産性を出す常在戦場の心意気こそが我が誇りでした。つまり英雄(ヒーロー)になろうとしていたのです。これがとてつもなく間違っていることに気付くまで、それほど時間はかかりませんでした。 

私たちがいるようなクリエイティビティー駆動の業界において"仕事を正常に完遂する"ことは戦いの一側面でしかありません。インスピレーションとは勝利からも敗北からも得られますし、イノベーションは正しい材料を正しい配分で慎重に組み上げなければ発生しません。そして"正しい材料"の中でも特に重要なのがマインドセットです。自分自身を再充電する正しい方法が分からないままでは、最高のクリエイティビティーを発揮することも、プレイヤーに向けて新たなイノベーションを生み出すことも敵わないでしょう。

そして再充電といってもやり方は様々です。大好きなゲームをプレイしている時間、Netflixで見たかった番組を楽しむ時間、家族や友人との素敵な食事の時間…どれも再充電の時間たり得ます。時には本物の休暇だって必要です。個人的にはスキーと新雪のセットが理想的ですね。要するに、完全に開放された時間を過ごすことが非常に重要なのです。 

 

Set of Arcane Skis

 

2022年の現在ですら、週100時間労働を誇らしげに語る業界のリーダーはまだ存在しています。ゲーミング企業がまだ業界の過去(英語)に学べていない証拠であると私は考えます。ゲーミング企業が"ゲームを作ること"を夢見て育った人材の期待を裏切ってきた実例は枚挙にいとまがありません。Riotでは特に社内文化に関する失敗と学びについては最大限包み隠さず公開するようにしてきましたから、ワークライフバランスおよびクランチ回避に対する私たちの取り組みについても高い透明性を保持していきたいと考えています。

ロウソクを両端から燃やすかのように休みなく働き続けるのは"己の価値を示し"続ける行為(ヒーローメンタリティー)ですが、これが求められる状況というのも確かにあるでしょう。スタートアップ企業の創業者やトラブルに直面した企業経営者などであれば、その種の献身的姿勢は必須であり、他者を鼓舞し、企業を良い方向へ進める上でのエネルギー源にすらなります。しかしヘルシーな成長中のグローバル企業の場合、この姿勢にはまったく持続可能性がありません。CEOはこの"ヒーローメンタリティー"抜きで成功できる組織を構築することを目標とすべきです。

 

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ワークライフバランスは偶然達成できるものではありません。私たちの場合は、クリエイティブな思考と問題解決を高く評価する企業文化の構築という間接的なアプローチを取りました。この文化では、ライアターは仕事に人生を捧げることなく活躍できます。もちろん仕事が尽きることはありませんから、計画、実務、方針決定のすべてにおいて"クランチを評価しない(あるいは必要としない)"職場を設計/先導していく必要はあります。またリーダーが24時間年中無休で働き続け、休日出勤も深夜残業も厭わない姿勢を見せていると、周囲の人間は――たとえ当人が一切要求しなくても――自分もそうするべきなのだろうと考えるようになります。 

Riotのような運営型タイトル特化企業の場合、"ゲームのリリース"は試合勝利を意味せず、むしろドラフトフェーズ終了くらいの意味になります。リリースは試合開始を意味し、そこから何ヶ月、何年、あるいは何十年と当該ゲームを支えていく準備が必要です。これを"正しく進める"には色々なことを理解している必要があります。仕事を離れ、休息し、立て直し、より良い状態で翌週を迎える方法。そして1v5を仕掛けない働き方。英雄にならない働き方。 

これが常時完全に実現できれば最高なのですが、たとえばWorldsで素晴らしい体験をプレイヤーに届けてくれたチームや、大規模ローンチ直前のチームなど、体験を最善のものにしようと長い時間を費やしているライアターも確かに存在しています。大きな節目やイベントに向けてハードに働き、最高の仕上がりを見せてくれる彼らには心から感謝しています。だからこそ"大きな波"を超えた後にはしっかり再充電できる余地を取り、十分に体と心を労ってもらうことが重要であると考えています。 

時には長時間労働が必要になることもあるでしょう。しかし"ハードワーク"が"クランチ"になり、"時には"が"慢性的"になるならば、それはリーダー陣の失策です。Riotでは社内アンケートでもワークライフバランスの比率について尋ねており、平均から大きく逸脱するチームを可能な限り早い段階で特定し、当該チームの抱える問題を解決できるようにしています。 

ライアターもライアトリングも支援する

私たちは今後も、ライアターそれぞれが職場外で人生を楽しめるようにする取り組みを積極的に行っていきます。 

特にここ数年は育児休業制度を充実させており、現在はほぼすべてのライアターを対象に、最低でも12週間の育児休業(有給)が取れる体制を取っています。また人生における家族の重要性を鑑み、全ジェンダーのライアターを対象に出産/養子縁組/代理母出産関連の福利厚生を提供できていることも、私が誇らしく思っている取り組みのひとつです。 

また最近ではサバティカルプログラムも導入し、長年貢献してくれたライアターが仕事から完全に離れられる期間を提供しています。ライアターの皆から聞く旅行の話や、熱中している趣味の話、そして何よりもさっぱりとリフレッシュした表情はいつも私を笑顔にしてくれます。 

端的に言えば、私たちはライアターに"人生を楽しんでもらいたい"のであって、人生を仕事と生活で折半して欲しいわけではない、ということです.

そしてRiotのワークライフバランスを語るうえで重要になってくるのが、オープンPTO(無制限の有給休暇)制度の存在です。

オープンPTO制度はITの世界では大きな争点のひとつとして扱われてきました。そして同種制度への批評のひとつに"せっかく素晴らしい福利厚生制度を用意しても、社員が申請を躊躇してしまって活用されない"というものがあります。私は当初そんな事は起きるはずがないと考えていましたが、実際に導入してみるとまさにその通りになりました!そこでRiotではやや強引な手法を取り…年に2回、夏と冬にオフィスを閉める"強制休暇"を導入しています(オープンPTO制度も引き続き活用を推奨しています)。

 

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長さは夏が1週間、冬が2週間で、毎年この期間は全社的にオフィスを閉め、全員でしっかりと休息を取ります(運営やeスポーツに携わるライアターもしっかりと休めるよう、当該チームのメンバーは時期をずらして強制休暇を取得してもらっています)。この期間は完全なオフモードに入ることを推奨しており、また組織全体が同時に休暇に入るため、各ライアターはSlackの未読メッセージやeメールが溜まり続ける恐怖に怯えることなく存分にリラックスできます。 

よく働きよく遊ぶ

もちろん今年も"遊ぶこと"にも真剣に向き合ってきました。有給休暇以外の時間でもです。

Riotという会社は設立以来、ライアターには自分たちが作るものをプレイ/体験するよう推奨し続けてきました。オフィス内PCカフェ(韓国のPCバンのような設えです)でプレイする、プレイテストに参加する、友人とD&Dで壮大な冒険に出かける…ライアターにとって、プレイヤーとしてプレイする感覚を知ることは必須だからです。私自身も、私生活で週に15~20時間はゲームをプレイしています。業務時間やプレイテストの参加時間を含めなくてもそのくらいです。 

また年に一度は、各ゲームの社内トーナメント"Rumble"も開催しています(Rumbleの過去動画はこちら)。RumbleはもはやRiotらしさを語るうえで欠かせない存在となっています。普段の業務内容がゲームバランス調整とどれほどかけ離れていても(名の知れた強豪Rumbleチームのひとつは財務部ライアターのチームです)、出場チームは団結を深めます。また現在は新機能のテスト機会としても活用されています(VALORANTに“近日”登場予定の、LoL Clashのようなトーナメントモードを楽しみにしていてください)。年に一度の特別イベントということでプライズも本気です。正直なところ、あのジャケットを見るたびに羨ましくなってしまいます。

もちろんRiot以外のゲームをプレイすることも推奨しており、年に一度、競業他社のゲームを購入するための手当"Play Fund"(英語)を支給しています。私たちは今後も他社ゲームを通じ、素晴らしい点と改善が必要な点の両方を学び続けていきます。プレイヤーのニーズを十全に理解し、より素晴らしい体験を作っていくことを目指して。 

ワークライフバランスの均衡はライフ側へ

皮肉な話ですが、私は初めてフランスという国を離れた時に"この国で仕事を成し遂げるのは難しい、週35時間労働や長期夏季休暇の風習は生産性を大きく押し下げてしまう"と思っていました。あれから20年。なぜか私はその休息と回復の文化を米国のチームに持ち込もうと奮闘しています(20年という歳月で私も色々と学んだようです)。ただしこれは、簡単にはいかないでしょう。 

米国のような土地において、現在"ハードワーク"や"価値ある仕事"とみなされる要因はあまり健全なものではありません。しかし私は――あるいは私たちRiotは――この変革を推し進め続けます。ライアターにとって最善の場所を作るために。私たちが長年にわたりプレイヤーのために変革を進めてきたのと同じ気持ちで。総合的に見て、ライアターは職場をとても気に入って(英語)くれています。この満足度のカギとなっているのは、皆が"自分の人生を生きて"いるからではないかと私は考えています。だからこそ職場で全力を発揮し、プレイヤーに貢献できるのではないかと。

最後に、私からあなたへひとつアドバイスを。次の休暇の予定がないという方は、今すぐ予定を立て始めてください。自宅でSteamの積みゲーを崩すための休暇であってもよいのです。そして休暇の後は、仕事に復帰する前に次回の休暇に向けたアイデアを思い浮かべてみててください。休暇から戻ったあなたが"気力充実!問題を解決したくてたまらない!クリエイティビティーが爆発しそうだ!"という状態だったなら、あなたの脳も、あなたの同僚もきっと喜んでくれるでしょう。ゲーム開発に英雄はいません。だからそのマントを脱いで、次の冒険に向かうためのスーツケースを準備しましょう。