私がブログ記事「ライアットゲームズが構築するeスポーツの未来」でEsportsに対するビジョンをお伝えしてからもう1年が経ちました。当時記したことの多くは今もまったく変わりませんが、一方でこの1年のあいだに、Esportsシーン全体でも、ライアットゲームズのEsportsエコシステムにおいても、さまざまな変化がありました。そこで今回のブログでは、うまく機能している点と変更点を示し、その上で私たちが未来を楽観視している理由について語ってみようと思います。

本稿ではテーマをLoL Esportsに絞ってお話しします。まず、私たちは14年前にLoL Esportsを立ち上げてから空前の勢いで規模を拡大し、世界各地のプレイヤー/ファンにその熱を広げ、さらに2つ目のメジャーEsports(VALORANT Champions Tour/VCT)を立ち上げました。その過程で“何が機能するか”、そして正直に言えば“何が機能しないか”もたくさん学んできました。私たちはLoL Esportsを愛しており、さらにこれがLoLというゲームの長期存続性を高める上で重要な役割を果たしていると確信しています。そう確信しているからこそ、ライアットゲームズはLoL Esportsに年間数億ドルという投資をしてきたのです。

さて、本稿で紹介するのはLCS、LEC、LCKのプロチームを対象とし、変化し続けるEsportsの現状を反映した新ビジネスモデルです(このほか、LPLともビジネスモデルの進化方針についてやり取りを進めています)。この新モデルはVCTに導入・運用されたモデルに近いものです。世界中のLoL Esportsファンのサポートがゲーム内デジタルアイテムを通じて各チームの収益予見性と経済的な“上振れ幅”を向上させる仕組み、とも言えるでしょう。今回、各チームに提示した変更内容は、LoL Esportsの健全性を保つと同時に長期的な持続可能性を拓くための施策です。ここでいう“持続可能性”とは、LoL Esportsがライアット、プロチーム、およびエコシステムに投資するその他のステークホルダーの費用をカバーするに足る収益を生み出すこと、そしてプロ選手として競技に打ち込む最高峰のプレイヤーたちに長期的なキャリアを提供することの両方を意味します。
 

LEC Winter Viewship Stats


冬の到来と言われるけれど

最初はEsportsの終焉を叫ぶ声が昨今過剰に大きくなっていることを踏まえ、“機能している点”を取り上げてみたいと思います。まずLoL Esportsコミュニティーの熱量はかつてないほどに高まっています。2023シーズンと2024シーズンの初頭は、私たちが未来への自信を深めるに足るだけの盛り上がりを見せました。2023年のグローバルイベントは視聴データも目覚ましく、大会形式を刷新したMid-Season Invitational(MSI)とWorldsのAWA(Average Minute Audience;1分あたりの平均視聴者数)は、同時配信の広がりも手伝ってそれぞれ前年比58%、65%の成長を達成。2023年はLoL Esports地域リーグ全体のAMAも成長を見せ、前年比16%の成長を遂げました。またLoL Esportsは第19回アジア競技大会でも花形競技として注目を集め、最終的には韓国チームが金メダルを獲得しています。 

2024年は開幕から記録的な視聴量を記録しているほか、この後にはLoL Esports Hall of Legends(LoLの殿堂)のお披露目も控えており、さらに中国・成都開催のMSIとヨーロッパ横断開催のWorldsでは、LoL Esportsの頂上決戦も繰り広げられます。なお、今年のWorldsの決勝戦はロンドンのO2 Arenaで開催予定です。

しかし、素晴らしい盛り上がりを見せた一方で、2023年はEsports産業全体がビジネス的課題に直面、当然ながら私たちも影響を受けました。特に1月に社員数を11%削減するという厳しい決断を下したことは極めて大きな出来事でした。この人員削減は、Esports部門を含むライアット社内全体に著しい影響を与えました。現在は社内調整を進め、“いつもの、皆さんの愛する”Esportsをお届けできるように尽力しているところですが、同時にエコシステム全体において特に重要なポイントを見極めることも意識しています。 

昨年のブログで私が挙げた課題の多くは、今も変わらず存在しています。リーグ、チームのどちらも、収益源として“スポンサーシップ”への依存が強すぎます。しかし、グローバル経済がポストコロナに本格移行すると、Esports産業全体でスポンサーシップビジネスは失速し、一部のチーム組織は運営の持続可能性に問題を抱えるようになりました。 

直近数ヶ月は再び景気が上向き、エコシステム全体にスポンサーシップ復調の兆しが見えてきたのは喜ばしいことです。たとえば直近では、Progressive、Coinbase、Hondaといった企業がLoL Esportsのチーム組織とスポンサー契約を交わしています。また、2024年はこれまでの数ヶ月でもHP Omen、HyperX、Uber、AT&T、Pagoda、Heinekenといったパートナーがエコシステムに参画してくれました。一方で、Kia(2019年から)、Mastercard(2018年から)、Mercedes-Benz(2020年から)、Red Bull(2019年から)といった世界的ブランドパートナーとの契約が延長されたことも等しく重要なことです。素晴らしい地域/グローバルパートナーが充実し続けていく現状は本当に喜ばしいことです。私たちはこれからもゲームと競技に対する深い情熱を共有し、シーズンを重ねるごとにより良いEsports体験を追求していきます。 

一方で私たちはこうしたスポンサーシップビジネスに加え、新たな収入源を構築することにも力を注ぎ続けていきます。中でもゲーム内デジタルアイテムの販売は、事業的成長の潜在性が最も高く、有意な収入を生み出し得る要素です(以下参照)。そして私たちは今も変わらず、Esports事業の収益化における最善の道は“LoLの試合のように味方と(チームパートナーと)共に成長し、共に成功を掴むこと”だと考えています。
 

League of Legends MSI 2023 Champions


2025年に向けた戦略の軌道調整

LoL Esportsエコシステムの現在のニーズと状況は、数年前とはだいぶん異なります。これはつまり、競技としての長期存続性を見直し、それを支えるビジネスモデルも現状に即した姿に再形成する必要があるということです。そして新たなビジネスモデルは、ライアットゲームズ、チームパートナー、プロプレイヤーの全員にとって実行可能かつ持続可能でなければなりません。もちろんエコシステムの支援にもこれまで通り尽力していきますが、同時に事業のスケール性を高めることも欠かせないでしょう。これこそがまさに、VCTに近い新パートナーシップモデルを立案してLCK、LCS、LECのパートナーチームに提案した理由でした。

現行のLoL Esportsパートナーシップモデルでは、各チームはリーグ参加費用として最大で1000万ドルを支払い、リーグの指定分野における収益(利益ではない)の50%を受け取ることになっています。この“収益”とは、従来ほぼスポンサーシップで、あとは比較的(かなり)少額のメディア放送権でした。もともとこのパートナーシップモデルでは、1)長期的なリーグ出場スロットを提供することで、各チームが複数年スポンサーシップや選手との長期契約を結べるようにすること、2)チームとリーグ間でインセンティブの方向性を揃えること、3)参加チームにリーグの経済的成功分を分配する方法を用意すること、という3点を目指して作られたものでした。そして当初導入された直後、各チームは巨額の資本にアクセス可能であったため、チームが直接的に生み出している収益やライアットから支払われる金額を超えた投資が可能でした。しかし時が立つにつれ、資本へのアクセスは限定的になり、収益の成長率がコスト上昇率に追いつかず、チーム側の準備金は枯渇していきました。

私たちが目指すのはチームの成功です。そこで私たちはまず各チームと協力してキャッシュ状況の改善を支援し、長期的な持続可能性に再集中していきました。たとえば、チームスポンサーカテゴリーを新設し、各種ポリシーと競技カレンダーの両方に調整を加え、チームや選手がサードパーティーイベントに出場しやすい環境を整えたのもこの取り組みの一環です。これは長らく選手側から要望されていた事項でもありました。また財務面では、リーグ収益に最低保証(各チームの実際の収益分配額を大幅に上回る額)を適用し、レベニューシェア分の支払い時期を前倒しし、参加費用(先述された最大1000万ドル)支払いの延期/分割に対応しています。この他には複数の地域リーグで、各チームが“実態に即したペースでの運営”をするよう促す財務ポリシーも導入しています。こうした施策は各チームの事業安定化・基礎構築の実現を目指すものでしたが、それでも私たちは長期的な持続可能性に確信を抱くことができませんでした。
 

League of Legends LCK trophy


経済的インセンティブを揃える

本記事で、チームオーナーの方々に向けて新チームパートナーシップモデル(チーム収益の点ではVCTモデルに近い構造)提案の全体像を話層と思います。LCK、LCS、LECのチーム出場スロットは変更されませんが、新ビジネスモデルはEsportsチームの共同ビジネス目標をより色濃く反映した内容になっています。以下の特徴も、LoL Esportsが元々目指していた姿に近いと言えるでしょう。 

  • チームパートナーと共に、Esportsを盛り上げ、共に成長する 

  • チームとリーグの間で、経済的インセンティブを揃える

  • レベニューシェア額に予見性を持たせ、持続可能な事業運営を後押しする

この新モデルではLCK、LCS、LECのチームに固定額の手当金が支払われ、さらにLoL Esports デジタルコンテンツの収益が分配されます。そして、レベニューシェアによる収益源の柱がスポンサーシップ売上のからデジタルコンテンツの売上に切り替わります。デジタルコンテンツの売上はスポンサーシップよりも景気低迷の影響を受けにくく、上振れ幅が大きいという特徴があります(スポンサーシップの場合は掲示スペースに限りがあり、カテゴリという分類があり、市場浸透率もあるため)。デジタルコンテンツのレベニューシェアにはこれ以外にも“チームとリーグが全員の成功のために真に力を合わせられる”というメリットがあります。というのも、スポンサーシップを中心とする場合、リーグとチームがそれぞれにスポンサーシップ獲得を目指すため、力を合わせようとしても契約内容/権利の干渉が起きてしまう、ということがよく起きてしまうからです。デジタルコンテンツではこうした干渉(“パイの奪い合い”)を低減でき、“パイ自体を大きくする”ために協力できます。  

なお、今回の新モデルではチームパートナーとのデジタルコンテンツのレベニューシェア分配方法にも変更が入ります。これまで国際大会(MSI、Worlds)関連デジタルコンテンツの売上は、出場チームにのみ分配されるようになっていました。これは1シーズン期間中にデジタルコンテンツのレベニューシェアを受け取れるチームが約20~30チームだけ、ということです。私たちはこの収益を、ティア1エコシステム全体に広く提供したいと考えます。これを目指して作成したのが、GRP(Global Revenue Pool;グローバル収益プール)です。GRPにはLoL Esportsのデジタル収益が集約され、次に示す3種の方法で各チームに分配されます: 

  1. General Shares(通常シェア):GRPの50%。ティア1チームに分配されます。 

  2. Competitive Shares(競技シェア):GRPの35%。競技成績に応じて分配されるしくみです。2分割され、地域リーグの順位と国際大会での成績にそれぞれ基づいて分配されます。 

  3. Fandom Shares(ファンシェア):GRPの残り15%。所属する選手やリーグ、あるいはチームブランドの熱烈なファンを作り出したチームに対する報酬です。 

私たちはGRPの未来に大いに期待しています。きっとチームとリーグのつながりを促し、競技的な強さの追求とファン活動の促進を両立してくれるでしょう。何より、パートナーチームの皆さんと共に勝てるというところが最高です。 

またGRPの影響を加速するため、以後はEsportsレベニューシェアの通常比率を高め、1シーズンにリリースするLoL Esportsデジタルコンテンツの総量を増やします。直近2シーズンでリリースしたLoL Esportsコンテンツ(MSI/Worldsコンテンツ、SKEエモート、Worlds優勝スキンなど)の反響と収益はこれまでと変わらず右肩上がりですから、今後も精力的にリリースを続けてGRPを支えていきます。実はこの他にも、開発中のLoL Esportsデジタルプロダクトがあるのですが…そちらは今年後半にまた紹介するのでお楽しみに。なおLoL Esportsの経済的事情が整ったタイミングで、Esportsデジタルコンテンツの収益だけでなく直接的な収益(スポンサーシップ、メディアなど)の50%も分配していく予定です。
 

Fans at Worlds 2023 in Seoul, Korea


Esportsの取り組みは長期的な視点から

忘れられないゲーミング体験を届けること。その目標に変わりはありません。そして、Esportsに対する私たちの取り組みは、Esports業界でも比類のない規模であり続けます。LoL Esportsは地球最高のEsportsであり、情熱的なコミュニティーがあり、そして名高いチーム、最高の選手、並ぶ者なき歴史を備えています。私たちが目指すのは更なる成長。今だけでなく未来のプレイヤーにもつながる舞台を築いていくことです。乗り越えるべき課題は表れてくるでしょうし、そのたびに調整も必要でしょう。それでも私たちは更なる高みを目指し続け、より良いプレイヤー体験を追求し、エコシステム全体──ライアットゲームズとすべてのパートナー──の持続可能性を追求していきます。